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東京高等裁判所 平成9年(ネ)493号 判決

福島県白河市字東三坂山二番地一九号

控訴人

福徳商事有限会社

右代表者代表取締役

宮本整二

右訴訟代理人弁護士

岩本公雄

若林実

東京都足立区梅島三丁目四番二一号

被控訴人

株式会社ミツバ・ニッコウ

右代表者代表取締役

内田博

右訴訟代理人弁護士

石田武臣

福原敦

平哲也

"

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨。

第二  当事者の主張

当事者の主張の要点は、以下に付加するほかは、原判決事実摘示「第二当事者の主張」記載のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人

1  中華麺単価の増額合意の錯誤無効に基づく不当利得返還請求債権を自働債権とする相殺(抗弁1)について

原判決は、「ラーメン店グループ等に対し最近でも中華麺一個当たり金四五円で売っていると聞いたことがあったことがうかがわれる」と認定しているが、そうであるとすれば、当然、「一方で廉売を継続しながら他方で被告に対し一律値上げを申し込んだ」ということになるはずであり、この点に関する原判決の推論は誤りである。

2  看板立替金返還請求債権を自働債権とする相殺(抗弁2)について

被控訴人は、「くるまや」の名称の使用について、その商標権者である栄商事からの名称使用禁止及び損害賠償請求に対しては、何ら控訴人ら加盟店を保護できるような法的立場になかったものであり、加盟店全部の損害金の支払や看板取替費用の合計額が、金三〇〇〇万円以上になっていたことを考慮すれば、「看板取替費用を負担する」旨の被控訴人代表者の発言は、単なる軽い口約束やリップサービスのようなものでないことが明らかである。

3  被控訴人が「ラーメン専科」の商標権を有しないで締結した本件契約の錯誤無効又は詐欺による取消し(抗弁3)について

フランチャイズ本部を営む者には、加盟者保護のため、中小小売商業振興法等で、商標に関する説明義務が法定されており、フランチャイズ契約の商標、名称等の使用許諾契約は、「許諾者に何らかの法的権利が存在すること、すなわち、第三者が「ラーメン専科」の商標権を持っていないことが、当然の前提である。しかも、控訴人は、本件契約を締結した平成三年五月ころ、「くるまや」の商標不当使用について被控訴人の過失により、裁判上苦しい立場にあったのであるから、「ラーメン専科」という新しい名称使用については、誰しも神経質になってその権利の存在の確認をするのが通常である。

したがって、被控訴人において「ラーメン専科」の商標等の使用権が存すること、少なくとも他の者がこの権利を有しないことは、本件契約の重要な要素である。それにもかかわらず、「ラーメン専科」については、訴外星野物産株式会社が第三二類「中華麺」(平成三年政令第二九九号による改正前の商標法施行令の商品区分による。以下同じ)に関して商標登録を有するに至ったものであるから、控訴人は、本件契約中の「名称使用許諾条項部分」について、明らかな錯誤があったというべきである。

4  被控訴人による違約金請求の権利濫用(抗弁4)について

控訴人らが、「くるまや」から脱会して新グループを作ったのは、被控訴人代表者が経営する別会社であるフタバが、「くるまや」から取引停止となり、その生麺の新販路をつくる強い必要性から、控訴人らを新グループに誘ったためであるが、その際、被控訴人代表者は、右「くるまや」脱会後も従来どおり「くるまや」の看板は使用できると述べていたにもかかわらず、それは虚偽であり、控訴人ら加盟店は、合計一三〇〇万円の賠償をさせられたものである。

また、「ラーメン専科」という名称使用についても、被控訴人代表者は、控訴人を含む加盟店となろうとする者に対して、「ラーメン専科」の商標を他人から買って自分が保有していると述べていたにもかかわらず、右商標は、前記星野物産が有することとなった。すなわち、被控訴人は、「ラーメン専科」の名称使用について、加盟店を法的に保護する権限がなく、第三者による「ラーメン専科」の名称使用を差し止めることもできないが、これらの事態は、専ら被控訴人の不注意又はミスによるものであり、控訴人らには何ら帰責事由がないのである。しかも、被控訴人は、商標法の改正(平成三年法律第六五号、平成四年四月一日施行)後、「飲食物の提供」の役務に関して「ラーメン専科」の商標の出願をしたが、いまだ登録に至っていない。

以上の争いがなく証拠上も明らかな事情のもとでは、被控訴人による本件契約に基づく違約金の請求は、権利の濫用となるものである。

二  被控訴人

1  抗弁1について

控訴人が主張する被控訴人と他の店舗との中華麺の売買とは、中華麺製造卸売業者であるフタバが、被控訴人とは別個のチェーン本部である「ガキ大将チエーン」の本部に中華麺を「一玉四五円」で卸売りしていたことを指しているものと推察されるが、このことは、被控訴人とは無関係のことであり、本件訴訟とも無関係のことがらである。しかも、フタバは、チェーン本部に所属する各店舗とは直接に中華麺の卸売取引をしておらず、当該チェーン本部が、被控訴人の場合と同様に、加盟各店舗に一玉五五円あるいは六〇円等で卸売りしているものである。

2  抗弁2について

平成三年二月から同年六月ころまでの間、約七〇店の加盟店が、「くるまやラーメン」の看板を「ラーメン専科」に取り替えたが、その際、各店舗が全て費用を負担しており、本件紛争発生後、控訴人から看板取替費用の負担分を相殺するとの主張が行われるまで、具体的に費用請求がなされた事案は一件もない。仮に、全店舗(約七〇店)の看板取替費用(一店舗約七〇万円)を全額被控訴人が負担するとすれば、合計約五〇〇〇万円もの負担をするというものであり、およそ常識的にみても考えられないものである。

3  抗弁3について

被控訴人は、平成三年の一、二月当時、商標法上サービスマークの登録は行えないが、法が改正され登録が可能となったときは、速やかに「ラーメン専科」の登録申請を行う予定でいること、それまでの間は営業の実績として数十店以上の店舗を同一名称で展開して不正競争防止法上の保護を受け得ること、「テイクアウト食品、一般の商品販売用商品の商標」としての第三一類「調味料・中華スープ」及び第三二類「中華麺」について「ラーメン専科」の商標登録の申請中であること等を、再三説明し、控訴人らもこれを了解して、本件契約の締結に至ったものであるから、控訴人においてこの点に関する錯誤の生じる余地はない。

なお、被控訴人は、改正法施行後の平成四年九月、第四二類(改正後のもの)の飲食物の提供の役務に関して「ラーメン専科」の登録申請を適切に行っており、平成八年七月三一日にこれが公告されたが、このように公告までの期間を要したのは、控訴人の集団的脱退の仲間である訴外中島忠彦が異議申立てを行ったためであり、そのために未だ登録に至っていないものである。

4  抗弁4について

「ラーメン専科」の看板・ロゴマークの撤去抹消の作業工程は、わずか一日、時間でいえば二、三時間程度で足りるものであり、その費用も二、三万円程度で済むことである。それにもかかわらず、控訴人は、この撤去抹消の作業を六か月以上にわたって行わず、意識的に使用を継続して違反行為を続けてきたものであって、悪質性が極めて強いものであるから、これに対する違約金の請求が権利の濫用となるものではない。

第三  証拠

原審及び当審における記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  原判決の引用

当裁判所も、被控訴人の本訴請求はいずれも理由があるものと判断する。

その理由は、次に述べるとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決の理由と同じであるから、これを引用する。

二  当審における控訴人の主張について

1  中華麺単価の増額合意の錯誤無効に基づく不当利得返還請求債権を自働債権とする相殺(抗弁1)、看板立替金返還請求債権を自働債権とする相殺(抗弁2)について

当審における控訴人の右各主張は、原審における主張の範囲を実質的に出るものではなく、それらがいずれも採用できないことは、原判決の説示するとおりであり、当審で提出された証拠を含め本件全証拠によっても、控訴人の右各抗弁を裏付けるに足りる事実は認められない。

2  被控訴人が「ラーメン専科」の商標権を有しないで締結した本件契約の錯誤無効又は詐欺による取消し(抗弁3)について

原判決二三頁四行目「本件全証拠に」から、同頁一一行目「理由がない。」までを、次のとおり改める。

「証拠(甲一四、被控訴人代表者)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、平成三年の一、二月ころ、控訴人代表者を含む本件フランチャイズチェーンへの参加予定者達に対して、当時の商標法上では飲食物の提供等の役務に関してサービスマークの登録を行うことができないが、近々、同法の改正が行われる予定であり、改正後にサービスマークの登録が可能となったときは、速やかに「ラーメン専科」の登録申請を行う予定でいること、登録が完了するまでの間は、営業の実績として数十店以上の店舗を同一名称で展開することにより不正競争防止法上の保護を受け得ること、テイクアウト食品や一般の商品販売用商品の商標としては、第三一類「調味料・中華スープ」及び第三二類「中華麺」の指定商品について「ラーメン専科」の商標登録の申請中であること等を、何回かにわたって説明し、控訴人らもこれらの点を了解して、本件契約の締結に至ったものと認められる。

したがって、被控訴人が「ラーメン専科」の商標を有する旨の説明をしたので、被控訴人がその確定的な使用権限を有するものと誤解したことを前提とする錯誤無効の抗弁は、その前提となる事実を認めることができないから、その余の点について判断するまでもなく理由がない。また、被控訴人が「ラーメン専科」の商標を得られないことを知りながらこれを隠して控訴人を騙したことを前提とする詐欺による取消しの抗弁も、その前提となる事実を認めることができないから、その余の点について判断するまでもなく理由がない。」

3  被控訴人による違約金請求の権利濫用(抗弁4)について

原判決二四頁二行目末尾と三行目冒頭の「相当」を削除して「四か月間以上の」を加える。

三  以上によれば、被控訴人の本訴請求はいずれも理由があり、これを認容した原判決は正当であって、控訴人の本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

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